←BACKFFCC TOPNEXT→

 ティパの村。
 その鍛冶屋の前で、二人のリルティが戦っていた。一人は訓練用の槍斧を手にしている。もう一人は、素手だった。槍斧を持っているのが、今回キャラバンに選ばれたリルティ、チャド。もう一人、素手でチャドと戦っているのはその父だ。二人が戦っている鍛冶屋の周りには、野次馬が集まっており、二人に応援の声を送ったり、二人の攻防の批評を下したりと、思い思いに過ごしている。
 チャドは、次々と繰り出す攻撃がことごとく父に躱されるのを悔しく思った。チャドの家は代々キャラバンの攻撃役として抜擢されてきた。彼の父もキャラバンのメンバーとして活躍していた。そのため、攻撃が当てられないのはしかたがないと思っている。しかし、
(やっぱり、訓練が始まってから一度も当てられていないっていうのは、さすがに悔しいし、へこむぜ……!!)
 こんな事で、旅が始まってから攻撃役として働く事が出来るのかと不安になる。しかし、同時にここまで強い父を頼もしく思う。自分がここまで必死にやっても一度も当てる事が出来ない。それは、自分と父の実力差を裏付ける物だ。
 訓練は、午前中にお互いに武器を持っての攻防戦。その後、父の攻撃をかわし続ける防御訓練。そして午後から今やっている攻撃訓練という流れで行われている。その中で分かった事は、父に武器を持たせてはいけないという事だ。なぜなら、武器を持った父は性格が変わる。
(あれはまさしくバーサーカー……)
 聞けば一応手加減をしているとの事だったが、とてもそんな風には思えない。正直なところ、武器を持った父には近づきたくない。しかし、それを上回るのは母親だ。チャドの母は、昼食が出来上がっても訓練を終わろうとしない父を見ると、音もなく背後に近寄り、その肩に手を置く。すると、今まで暴れまくっていた父が震えながら止まるのだ。
 やがて、チャドは訓練の終わりの時間が近づいてきたのを悟った。家の中から母がこちらを伺っているのだ。中途半端なところで訓練を止められたのではチャドとしても不本意だ。
 チャドは奥歯を強く噛み、最後の力を振り絞る。そして、父に必死の猛攻を仕掛けた。
 チャドの最後の猛攻に、父も驚いたのか、一歩下がった。これまではなかった事だ。その事に手応えを覚え、更に一歩踏み出し、攻撃する。周囲の野次馬も息を呑む中で、チャドは当たるという予感とともに、更に攻撃を加速させた。
 しかし、突き出した槍斧はその半ばを掴まれ、勢いよく引き寄せられた。
 自分の外側から、強制的に速度を上げられたチャドは、その速度を殺しきれずに、勢いよく転んでしまった。
 地面から父を睨みつけると、てつかめんの上から頭を撫でられた。
「チャド、成長したな。最後の連撃はなかなかよかったぞ」
 父の予想外の褒め言葉に、思わず頬が緩む。しかし、すぐに引き締める。それは、父が褒め言葉で終わらせない事を分かっていたからだ。
「だが、キャラバンは一人じゃない。お前があの動作で疲れてしまって、その後の行程に支障をきたすようではだめだ。それは分かっているな?」
 その言葉に、頷く。
「分かってる。キャラバンの皆を守らないと」
 チャドのその言葉に、父の手が頭から離れた。
 姿勢を正し、父の目を見れるように立ち上がった。気がつけば、周囲にいた野次馬達は消えている。
「それは違うな」
「え?」
「確かに、俺たちリルティは、他の種族に比べて体力的に秀でている。伊達に武の民と呼ばれていた訳ではない」
 父の言葉に頷く。それは、訓練が始まる前から言われていたことだ。
「でもな、それが他の民より優れているというわけではない。旅の中では、お前が助けられることも多々出てくるだろう。全ては助け合いだ」
「分かってる。でも、戦闘面で、おれたちがその・・・・・・有利、というか、強いことは事実だろ?」
 父はゆるゆると首を左右に振る。
」 「この世界にはな、お前の想像も出来ないようなモンスターもいる。そいつらには、物理攻撃があまり効かない。そんなときは、お前の苦手な魔法が大事になるときもある。戦闘中は、何が起こるか分からん。お前が戦っていると、背後から襲われるかもしれない。そんなときは、仲間がフォローしてくれるだろう」
 父の言葉に頷きながらも、どこか納得出来なかった。
 そのことが父も分かったのだろう。苦笑しながら頭の上に手を置かれた。
「ま、口で言っても分からんか」
 頭が揺れるほどの力で頭をなでられる。てつかめんの中で頭を数回鉄にぶつけ、目の前を星が舞い始めてから、父は手を離してくれた。
「明日には出発だ」
 手が離れたことで上を向くことが出来るようになったチャドは、父の顔を見上げる。
「もう、キャラバンから離れた俺に言えることはもう何もない。この村のクリスタルのことは、お前らの世代に任せる」
「任せとけって。すぐに親父に勝てるようになって帰ってくるからさ」
 チャドの言葉に、父は豪快に笑う。
「そんなすぐに負けてたまるか。そんな台詞は俺に一度でも攻撃を当ててから言うんだな!!」
 そう言った父に、強く背中を叩かれ、思わず咽せる。
 そして、明日からの旅に思いを馳せながら、父に仕返すべく、逃げる父を追いかけた。


 道具屋の屋根の上で、ム・ジカは寝転がっていた。そこから、明日からはしばらく見る事が出来なくなる村全体を目に焼き付ける。
 下、家の前では両親が元気よく客引きをしている声が聞こえる。いつもなら、屋根に登ってさぼっていよう物なら、親父に蹴り落とされ、商売の手伝いをさせられるのだが、雫集めに出る前日は、強制はしないようだ。それでも、両親の後方で手伝いをしている伯父は恨めしそうな目でこちらを見ている。
 そんな伯父の視線を受けても、ム・ジカは慣れた物で、あくびをかみ殺すと、視線を町の中心。クリスタルに向ける。 そこには、村長夫婦とその息子がいる。息子と言っても、四十を超えたクラヴァットだ。名を、ウェルシュという。最近は村長業務を引き継ぐため、よく村長と一緒にいるのをみる。
 その村長の息子だが、彼はム・ジカの伯父と同じキャラバンメンバーだった。彼がいなければ、キャラバンは崩壊し、この村もクリスタルの輝きを失っていたと言われる。詳しく訊けば、当時、伯父が同じキャラバンのクラヴァットに手を出そうとした。それが、今の村長の息子の嫁なのだが、その彼女は、伯父を一切相手にしなかった。その時点で二人は結ばれていたため、ではなく、どうやら伯父が根本的に好きになれなかったらしい。それに我慢ならなかった伯父は、その時滞在していたアルフィタリア城の西にあるジャック・モキートの館で、一人で先行し、他のメンバーを部屋に置き去りにした。
 その時ウェルシュは、素早く状況を理解し、嫁と、同じメンバーだったリルティに回復役と攻撃役を割り振ると、己は物理攻撃と魔法攻撃の両立という、人離れした技を行ったらしい。  結果、キャラバンメンバーは無事ミルラの雫を回収し、村に恵みをもたらした。そして、その旅で伯父が行ったことを明らかにすると、以降の伯父の行動に制限を設けた。それが、およそ二十年前。
 この世界に瘴気が満ちてから続いてきた年代記に、明日から自分も名を連ねることになる。


←BACKFFCC TOPNEXT→
inserted by FC2 system