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  ティパの村。その村境にある橋、そこにいつもと違った風景が見られた。人集りが出来ているのだ。
 いつもであれば、村境には村の外に出ようとする者や、村に近づいてくる魔物の監視をする、最低限の人間しかいない。
   しかし、今日ばかりは仕方のない事だった。キャラバンが出発するのだ。もしもキャラバンが雫集めに失敗すれば、キャラバンはもちろんのこと、クリスタルを清める事の出来なかった村も瘴気に侵されてしまう。そのため、キャラバンが出発する日は、お互い最後になるかもしれない相手との思い出を記憶に刻み付けようと、村境まで来て見送るのだ。
「では、ム・ジカよ。年長者のお前が、皆の面倒をしっかり見るのじゃぞ?」
 キャラバンの先頭。そこには、ム・ジカと呼ばれたセルキーがいる。彼はベアフィストと呼ばれる、頭にバンダナを巻いた格好だ。その右後方にはしろずきんといわれる格好をしたクラヴァットの女、エリンが立ち、その更に右にはリボンハートといわれる兜をつけた、女のユークがいる。そして、ム・ジカの左後方にはてつかめんをつけたリルティのチャドが立っている。
「任せとけって。こんなもん、子供にやらせるお使いだぜ」
 ム・ジカにそう言われたクラヴァットの男、この村の村長であるピーターは表情を険しくする。
「ム・ジカ!!」
 ム・ジカに対して勢いのある言葉をかけたのは、しかし村長ではなかった。ム・ジカを叱ったのは、ム・ジカと同じセルキーの男性だ。ム・ジカより年を経たその男は、しかし、一切の衰えを感じさせない。ム・ジカの父親、ギ・エムだ。
「例え冗談であっても、雫集めの旅を馬鹿にする事は許さん」
 父親の、いつにない珍しく真面目な叱責に、ム・ジカは軽く方をすくめる。一見、軽薄そうに見えるその態度に、ギ・エムは再び口を開こうとする。
「わるかったよ」
 しかし、直後に放たれたム・ジカの言葉に、その口を開く事なく頷いた。いつもなら謝る事のないム・ジカが素直に謝ったので、ひとまずは納得したのだ。
 そして、その応答を見ていた村長が一歩前に出る。その隣には息子のウェルシュも一緒だ。
「お前達は今年が初めての旅になる。雫集めも大切だが、身の安全を一番に考えるのだぞ?雫が集まりきってなくても、けがをしたら戻ってくればいい。人をかえてまた行かせるからの」 「はい」
 村長の言葉に、エリンが返事をする。
 一応ム・ジカがキャラバンのリーダーではある。しかし、年長者だという事以外に選ばれた理由もないため、キャラバンとしての最終的な決断を下すような、重要な場面以外では、ふざける事も少ないエリンが応答をする事も多い。
「あ、すみませーん。通してくださーい!」
 人集りの奥から、声が聞こえた。
 声の主がいる方では人が道を譲り、村長達は声のした方を振り向く。
 そして、声の主が人集りを割って先頭に出てきた。それは、エリンの恋人であるキアランだった。ここまで走って来たのだろう。膝に手をつき、息を整えるその手には何かが握られている。
「どうしたんだ、そんなに急いで。お前らしくもねぇ」
 息を切らせているキアランに、ム・ジカが声をかける。幼い頃からの付き合いで、この友人が恋人の見送りという、重大な事に遅れる事に驚いていたのだ。
「いやぁ、自分の腕を過信してたよ」
 そう疲れきった顔でキアランは、状態を起こし、その手に握られていた物を差し出した。
「これは……?」
「お守りだよ」
 ム・ジカがキアランから受け取ったものは、合計で4つ。メンバー全員の分だろう。おそらく見送りの時間になっても完成しなかったので、ぎりぎりまでがんばったらしい。
「ほんと、いつもなら余裕を持って行動するお前が珍しいな。エリンになにか……」
 作っていたのか?と聞こうとしたが、脛をキアランに蹴られてその言葉は出なかった。
「お守りだよ」
 強い言葉と迫力のある表情でム・ジカに詰め寄るキアランを、エリンがキアランに落ち着くように促す。
「わ、分かったから落ち着いて」
「とにかく、身体には気をつけろ。その為にこの早い時期に出発させているのだから。怪我をしたら、戻って来れなくとも、手紙などで知らせてくれればいい。一度近くの町などで休む事も考えなさい」
 村長の後ろにいたユーク、シーベークが言う。その言葉には折れた片角分の重みが乗っている。しかし、その言葉は三人のやり取りを見てわずかに震えている。
「はい。記憶に留めておきます」
 イーリアスが、その頭を振り、師匠の言葉を神妙に受け取る。
 その言葉を聞いて、シーベークの後ろにいたリルティ、チャドの父親が、何もかぶっていない頭を掻く。
「変わりっつうか、他のキャラバンが困ってたりしたら、助けてやるんだぞ。このご時世、助け合いが大事だからな」
「分かってるっての」
 キャラバンのメンバーであるリルティの親子のやり取りが終わると、いよいよ出発しようかという空気になった。
「じゃあ、そろそろ行くわ」
 あくまでも軽くム・ジカが言う。
 すると、それぞれの親しい人との最後の挨拶を各々が終わらす。
「じゃあ、みんな気をつけてね」
「エリンじゃないのか?」
 キアランの言葉を、ム・ジカが茶化す。
「あんな息子だが、よろしく頼む」
「いえ!そんな!」
 なぜかエリンに頭を下げるギ・エムの姿がある。
「一番年下でいろいろ大変かもしれんが、頑張ってくれ」
「ガキ扱いすんな!」
 チャドのてつかめんを撫でる村長と、その手を払いのけるチャド。
「ま、いろいろ見て、世界の広さと恐ろしさを体感してくるといい」
「あなたがそれをいうのか……」
 チャドの父がイーリアスに声をかけ、その言葉に突っ込むシーベークがいた。
 そして、そんな村の皆の見送りを受けて、キャラバンは初めての雫集めの旅に出発した。
 


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