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「姉貴・・・・・・」
 マール峠。その道の真ん中でかけられた声に振り返れば、そこにはしばらく見なかった姉の姿があった。
「あら?ム・ジカじゃない。久しぶりね。ミルラの雫は順調に溜まってる?」
 実家にいた頃と変わらない笑みとともに言われ、ム・ジカも笑い返す。
「ああ順調さ。姉貴こそ、こんなところで油売ってて大丈夫か?客がどっかに行っちまうぜ」
 姉のリ・ジルはティパの村を出て行商人とともに旅をしている。父もそれは了承しており、存分に見聞を広めてくることと、機会があればティパの村の紹介を行うように、と言っていた。
 ム・ジカの言葉に、リ・ジルは声を立てて笑った。
「心配御無用!!ここでの商売はもう終わったから。これから船に乗ってファムに行くところよ」
 姉の言葉に、ム・ジカは対岸にあると聞く大農場を思い浮かべる。まだ村から出てそれほどの時間は経っていないが、己もいずれは対岸の大農場に行くようになるのだろうか。
「そうかよ。じゃ、商売がんばれよ」
「ふふん。あんたに言われるまでもないわ。なにせこちとら生活がかかってるからね。稼げなかったら飢え死にしちゃう」
「おーい!ジル!そろそろ行くぞ!!」
 声のした方を見ると峠の先で、馬車を引いているセルキーが見えた。その胸はセルキーの例にもれず豊かなふくらみが見て取れる。
「あら、ユイが呼んでるからもう行くわ。じゃ、雫集めがんがってね。私よりも危ないんだから、体は大事にすること」
「なんだ。もう行くのか?エリンたちにも会っていけばいいのに」
「あぁ、そういえばそうね。確かにチャドをからかうのは楽しいし、イーリアスやエリンと話すのはいいんだけど、一応ユイがリーダーだからね。昼間は言うこと聞いてあげないと」
 最後に付け加えられた一言に、ム・ジカは思わず半眼になる。
「はいはい。さっさと行け。あんまりいじめるなよ」
 ム・ジカの言葉に、リ・ジルは恥じらうように笑った。
「それは無理よ。だって、いじめた時のユイの表情ったら可愛くって・・・・・・!」
 リ・ジルがその場で身悶えし始めたので、ム・ジカは姉から二歩ほど距離を開ける。
「おい!ジル!さっさと行くぞ!」
 ついにリ・ジルのパートナーであるラ・ユイが肩を怒らせながら歩いてきた。
「いつもお世話かけてます・・・・・・」
 ム・ジカが思わず頭をさげると、ラ・ユイが眉をひそめたのが視界の端に映った。そのラ・ユイにリ・ジルがしなだれかかる。
「夜のことよ」
 そしてその耳元で囁くと、ラ・ユイの顔が目に見えて赤くなっていった。


 ラ・ユイに引きずられながら去っていく姉を見送り、マール峠を見渡せば、クリスタルの側で、クリスタルを見上げているイーリアスを見つけた。なにか考え事をしているようだ。
「よう。どうしたんだ?」
 歩み寄り、そう声をかけると、イーリアスの頭がこちらを向いた。
「先ほどここの子供達が私のことを遠巻きにしていましたので、両手を広げて近寄って行ったんです。私としては敵意が無いことを表現したつもりなのですが、逃げてしまいました。・・・・・・一体何が問題だったのかを考えていました」
 イーリアスの言葉に、ム・ジカは右手で額を押さえた。ム・ジカなど、育った環境にユークがいれば、その行動に慣れているし、珍しくはないので例え腕を広げて近寄ってきても特段怯えることはない。しかしユークに慣れていないこの土地の子供たちが、腕を広げて近寄ってくるユーク相手に平静でいられるとは思えない。子供からしたらただでさえ得体のしれないと思っている鳥のお化けが、羽を広げて近寄ってくるのだ。それは逃げる。ム・ジカでも得体の知れないものが体を大きく見せながら近寄ってきたら逃げるか迎撃するかのどちらかだ。
 そこまで考えて、イーリアスが攻撃されることなく無事なのは幸運であったような気がしてきた。「ま、まぁ、ユークを見るのが珍しかったんだろ。問題はお前が腕広げたことだと思うぞ。今度からは腕広げながら近寄るんじゃなくて、しゃがんで優しく声かけてみろよ。もしかしたら近寄ってくるかもしれんし」
「??警戒して遠くから見ているのに、しゃがむのですか?それでは向こうが近寄ってこなければ話すこともできませんが」
「相手は子供だからなぁ・・・・・・。下手に近寄るよりかは待ってやったほうがいいんだよ」
 腕組みをして、首をかしげるイーリアスの肩に、ム・ジカは手を置いた。
「で?初めてティパの村以外のクリスタルの元に来て感想は?」
「あぁ、そうですね。物を売っている人がいないのが気になりました」
 イーリアスの言葉を聞いたム・ジカは首をかしげる。そして周囲を見渡してみれば、確かに商人らしき人影も、生活用品を取り扱っているものも見当たらない。さきほど姉に会ったため、てっきり商人がいるものだと思っていた。姉がマール峠の店に商品を卸していると。
「・・・・・・確かにどこにも店が見当たらないな」
 ざっと見渡してある店といえば鍛冶屋くらいのものだ。その鍛冶屋はなぜか2店舗あるが、そこで日用品を扱っているようには見えない。
「わからんかったら聞くのが早いな」
 考えてわかることなら考えるべきだが、考えてもわからないことをいつまでも考えていても仕方がない。考えこんだ挙句に、全く別の答えを出してしまうかもしれない。今は考えるにしても考えるための材料が足りない。
 ム・ジカとイーリアスは2店舗あるうち、槍の看板を掲げた鍛冶屋に向かって歩き始めた。
「あれは・・・・・・ノディさんではありませんか?」
 鍛冶屋に近づいたイーリアスが、声を上げた。イーリアスに言われて、ム・ジカも鍛冶屋の前で伸びをしているリルティに気がついた。それは確かにマール峠に来る途中で出会ったリルティ、ノディに違いなかった。
「確かにそうだな」
 と、近づくム・ジカたちの声が聞こえたのか、ノディがム・ジカたちの方を向く。そして大きく右手を振った。ム・ジカも手を振り返す。
「よう。どうだここは。いいところだろう」
 ノディの言葉に、ム・ジカは頷く。ティパの村よりは人が少ないが、すれ違う人は皆頭を下げたり、軽く手を振ったりと、まるで旧知の仲のように振舞ってくれる。
 そのことをノディに言うと、ノディは声に出しては笑わなかったが、満面の笑みで答えた。
「そうだろう。なにせここは行商で栄えてきたからな。通る人は皆身内みたいに考えてるところがある。・・・・・・それより、ここには何の用で来たんだ?わざわざそんなことを言いに来たんじゃないだろう」
「あぁ・・・・・・。そうだ。ここには物を売っているところがないようだが、生活品はどうしてるんだ?」
「ん?そりゃ基本的になんでも作るさ。食料品から日用品までな」
「?行商で栄えてきたんだよな?」
「そうだが?」
 ム・ジカの頭にハテナマークが浮かぶ。ノディの言う通りなら、ここでは行商人たちは苦労するはずだ。なにしろ生活の何もかもを自給自足するのだ。そんなところに物を売りに来ても物は売れないだろう。
「あぁ、そうか。行商人ってのは・・・・・・」
「その地方での特産品を遠方で売り、利益を得るものたちのことですね」
 ム・ジカの言葉をイーリアスが続ける。
「そういうこった。ま、もっともここがもっとも栄えてたのは、リルティが街道を整備していた頃だって聞いてるがな。その頃、ここはアルフィタリアからきたリルティ達の補給地点だったらしいから、人の出入りも激しかったらしい」
「なるほどな」
「聞きたいことはもうないか?」
「ああ。ありがとう。勉強になったよ」
 ム・ジカの言葉に、ノディが手を頭の上で振った。
「気にするな。あいつの息子だからな。大抵のことは聞いてやるよ」
 ノディの言葉に、過去、父とどのようなことがあったのかが気になったが、今は聞かないことにする。それは帰って、村で父から聞いた方が面白そうだ。暖炉の前で父と話し、その隣に村長もいれば、誇張癖のある父の話にいい合いの手を入れてくれるだろう。
 ム・ジカとイーリアスは、ノディに礼を言うと、荷物を置いている宿に足を向けた。


「カトゥリゲス鉱山で雫を集めた後、アルフィタリア城に行きたいんだけど、ダメかな」
 ム・ジカとイーリアスが宿に戻ると、チャドとエリンも部屋でくつろいでいた。ム・ジカが今後の予定について話すと、チャドがそう切り出した。雫集めの旅の日数にはまだ余裕がある。カトゥリゲス鉱山で雫を集めた後、瘴気ストリームを抜けてアルフィタリア城に抜けても大丈夫だろう。カトゥリゲス鉱山で雫を集めた後、キノコの森に行くよりかは、気分転換にもなっていいかもしれない。
「別に問題はねえけどよ。なんか用があるのか?」
 マール峠に来る前はそんなことを言っていなかった。ム・ジカは突然そう言い出したチャドの心変わりの理由が気になり、そう尋ねた。
「ぼ、ぼくは別に用はないけど!!ほら、親父とかがアルフィタリア城の様子なんかはきになるかなぁ、と思ってさ!!」
 チャドの言葉が、誰かの受け売りで、自分の意見でないことは語調から明らかだったが、それをわざわざ指摘するのもかわいそうだ。
「そうですね・・・・・・。確かに他のクリスタルのある場所の様子は知っておいたほうがいいかもしれません」
 イーリアスがチャドの言葉を支持する。チャドは視線でイーリアスをちらりと見るが、特に何も言うことなく、どこかホッとした様子だ。
「俺も他のクリスタルのある場所の情勢は知っておいて損はないと思う。旅程にもまだ余裕はあるし、アルフィタリア城に寄ったからって村が瘴気に犯されるようなこともないだろう」
「その辺の判断はみんなに任せる。キアランや家族に話す土産話が増えるのは嬉しいし。・・・・・・でも、目先のカトゥリゲス鉱山にまずは集中しようか。先のことを気にして怪我でもしたら大変だし」
 ム・ジカに続いてエリンの同意も得られたことで、ティパの村のキャラバンは、カトゥリゲス鉱山で雫を集めた後はアルフィタリア城に行くこととなった。


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