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 キノコの森から、マール峠に続く道を、北上していく馬車があった。ティパの村のキャラバンだ。
 アルフィタリア城の警備隊によって、キノコの森のミルラの雫を集めることが出来なかった一同は、カトゥリゲス鉱山に向かって進んでいる。
 道中、ユークを除く3種族が共生しているマール峠がある。現在はそこで補給するべく、馬車を進めている。
「ふぁ・・・・・・」
 御者台で、欠伸をこぼしたのは、セルキーのム・ジカだ。
 ム・ジカは、半分眠りながら手綱を握っていた。キノコの森を後にして早くも2日が経っている。明日の昼頃にはマール峠に着く予定だ。キノコの森で雫を集めることが出来ていたなら、適度な緊張を保つことが出来ていたかもしれない。しかし、リバーベル街道でジャイアントクラブとの死闘を終えて、早くも4日。その緊張感も薄れている。
「ねぇ、峠まであとどのくらい?」
 御者台の後方、声のした方を振り向けば、クラヴァットのエリンがいた。荷台から顔だけを出したエリンの顔には、村を出発した頃の緊張感は見られない。
「このまま順調にいけば、今日か明日にはつける筈だ」
「わかりました」
 ム・ジカの言葉を聞いたエリンは荷台に身体を戻す。
 ム・ジカも顔を正面に戻し、変わらない景色を眺めながら再び欠伸をこぼした。
 

 ム・ジカは、遠くから響く金属音に身体を震わせた。どうやら気がつかないうちに眠っていたらしい。何が自分の意識を覚醒させたム・ジカは、チャドを探した。しかし、視界に入る辺りには見あたらない。
「チャド!!」
 仕方なく声を張り上げると、荷台から物音がした。その後、チャドが姿を現す。
「呼んだ?」
「馬車の後ろを確認しろ。金属がぶつかり合う音がする。ないとは思うがアルフィタリアの奴らが追いかけてきたのかもしれない」
「まさか!気がつくわけないよ。馬車があんなにぼろぼろになっても放置してた奴らだよ?」
「そんな事はどうでもいい。今はこっちに近づいてきている音の確かめるのが先だ」
 ム・ジカの言葉を聞いたチャドは、一度頷き、馬車から飛び降りた。
 チャドが確認作業から戻ってくるまでに、ム・ジカは相手がアルフィタリア城の面々だった場合の対処を考える。あの高圧的なアルフィタリアのリルティが相手では何を言っても無駄だろうし、馬車に新しい傷を付けたのは事実だ。
 ム・ジカがそう考えている間にも、金属音はだんだんと近づいてくる。耳をすませば、三人分の足音だという事が分かった。その人数の合致が、ム・ジカを憂鬱にさせる。馬車の一件がなくとも、ああいった高圧的な輩の相手は出来るだけしたくないのだ。
 やがて、ム・ジカに近づいてくる足音が聞こえた。顔をそちらに向ければ、そこにいたのはチャドではなく、ユークのイーリアスだった。
「?チャドはどうした」
「まだ後ろにいますよ。金属音ですけど、アルフィタリアのリルティじゃありません。あの子はそんな情報信じられないって言って、自分の目で確認してから報告するって言ってました」
「ああ、そうか。ありがとう。で、どうして分かったんだ。っていうか、今までどこにいた?ずっと馬車の後ろに座ってたのか?」
「いえ、瘴気の中にとどまれば、だんだんと瘴気に慣れるのではないかと思い、実験しているところです」
「・・・・・・は?」
「水の中に潜り続ければ、潜水時間は長くなるでしょう?それと同じで瘴気の中で日常的に活動していれば、瘴気の毒に強くなるのでは?とおもいまして」
 イーリアスの言葉を聞いたム・ジカは、頭を抱える。
「あのな、潜水時間が長くなるのは、肺活量が増えるからだろう?どんなに潜り続けても、水の中で呼吸する事は出来ねぇだろ・・・・・・」
「・・・・・・?あー、ほんとですね。気がつきませんでした」
「にぃ!!」
 ム・ジカは、駆け寄ってきながらの声に振り向く。
「やっぱりアルフィタリアの奴らじゃないよ!この先、マール峠のキャラバンみたい」
 チャドの言葉に、ム・ジカは安堵のため息をこぼした。
「そうか、二人がそう言うんなら間違いないだろう。加えて、マール峠のキャラバンならありがたい。マール峠まで同行出来るか聞いてみよう」
 ム・ジカの言葉に、二人は頷く。手綱を引いて、パパオマスを止める。そのまま影の大きさが変わらないほどの時間を待つ。後方から響く音がだんだんと大きくなる。
 人影が大きくなり、双方の顔が認識できる程の大きさにまでなると、ム・ジカは大きく手を振った。
 振られたマール峠のキャラバンは、一旦立ち止まり、お互いに顔を見合わせると、それまでよりすこし速度を上げてム・ジカ達の方へ駆けてきた。彼らがたどり着くまで待つ事しばし。
 どうやらマール峠のキャラバンはリルティだけの三人構成のようだ。アルフィタリア城のキャラバンとは違い、全員がすっぴんというスタイルで、何も被っていない。
「よう!見ない顔だな!!今年からか!?俺たちはマール峠のキャラバンだ!」
 リルティの中で、最も年長だと思われる者がム・ジカに向けて手を挙げる。その風体は、キノコの森で出会ったアルフィタリア城のキャラバンとは異なる。
(あ、こいつ暑苦しい奴だ。関わるのめんどくせぇ・・・・・・)
 向こうの第一声の大きさと勢いに、ム・ジカは思わずひいてしまう。村では漁師をやっている友人がこんな感じだ。同類の匂いがする。
「あ、ああ。今年世代交代したんだ。ティパの村のキャラバンだ。いろいろと世話になるかもしれない。よろしく」
「ティパ?・・・・・・あー!!じゃああいつはお前の親父か!」
 言われて、該当する人物が1人しかいなかったので、頷く。
「そうだ」
「いやー、そうかそうか!!」
 相手は何かに納得したのか、激しく頷いた。
「ああ、俺はノディ=ミカエルだ。お前んとこの親父には何度か世話になってな!これからどこに行くんだ?」
「俺たちはこれからマール峠に・・・・・・「そうか!じゃあ着いて来いよ!今から帰るところなんだ」」
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
 数回会話しただけなのに、ジャイアントクラブと戦った時よりも疲れた気がして、ム・ジカは内心でため息を吐いた。


「いい加減歳だしな。今年で最後にする予定だ」
 マール峠へと至る道。ノディは顔合わせした時には想像もつかないような穏やかな声で言った。時間は夜。街道から少し外れたところで野営をしているところだ。ム・ジカとノディを除く5人は今は眠っている。
「お前んとこの親父はさっさと引退出来たがな。それも村の年齢層が厚いから出来る事だ」
「・・・・・・今のマール峠は、一時期程の賑わいはないらしいな」
「ああ。おかげで俺みたいな老いぼれが未だに雫集めしなきゃいけねぇ。家に嫁も待たせっぱなしだしな。まぁ、責任ある仕事だって、納得はしてくれてるみてぇだが」
 ム・ジカは村の事を思う。外からやってきたシーベーク。ム・ジカの親でもあるギ・エムにしろ、村の外からやって来ている。マール峠では、ティパの村のように外からあまり人が入ってこないのだろう。
「それはどこのどこにでも言える事だと思う。瘴気で人のいるところに簡単に行けないんだ。この瘴気がどうにか出来れば、行き来が出来るようになるから、状況もかわると思うんだけどな」
 しかし、今現在、瘴気がどうして発生するか分かっていない。発生原因が分かっていない以上、止める方法もわからない。
「まぁ、あんたが引退するように、人の時代も確実に移り変わる。いずれ、この瘴気をはらす方法を誰かが見つけるのかもしれねぇな」
「・・・・・・セルキーの割にいろいろ考えてるじゃねぇか」
 火に映されるノディの顔には、驚きがあった。
「ま、全部親父の受け売りだけどな」
「ああ、あいつの受け売りか。だったら分かる気もするな。あいつはいつもいろいろと考えてたから」
 馬車の方からは、時折寝息や寝言が聞こえてくる。耳をすませば、虫の声も。
 空を見上げる。無数の星が見下ろしている。
「まぁ、俺は親父程にはいろいろ考えられねぇ。今言ったのも、親父の受け売りで、俺個人の意見としては、どうにかなるんじゃないかと思ってるしな」
 クリスタルがなくとも、虫たちは息づいているし、星は輝いている。いずれ滅ぶかもしれないが、そこにいる人たちが全力で抗えば、その滅ぶ未来も先延ばしに出来るかもしれない。ム・ジカの姉は、外に何かを求めて行商の旅に出たし、ギ・エムも村の外とも強く繋がっているようだ。村の外に出て、父の名前をよく聞く事に驚いている。
「とりあえず、あんたは最後の雫集めを頑張る事だな」
「うるせぇ!言われなくても分かってるよ」
 ゆっくりと、夜はふけていく。


 マール峠のキャラバンと行動をともにするようになってから、2日後の昼。
 目の前にクリスタルの光が見え始めた。村を出てまだ数日しか経っていないが、クリスタルを見ると安心する。
 それは、ム・ジカ以外のメンバーも同じようで、その表情には安堵の色がある。
 その日、ティパの村のキャラバンは、初めてティパの村でないクリスタルが守る土地に足を踏み入れた。


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