←BACKFFCC TOPNEXT→

 ティパの村のキャラバンは、初めての瘴気ストリームを前にしていた。
 幾重にも重なる木々の向こうからは、目に見える程の濃度の瘴気が流れてきている。クリスタルの加護の中にいるにも関わらず、若干の息苦しさを感じる。
「おー・・・・・・。噂には聞いてたけど、やっぱ実際に目の前で見ると違うな」
 その、見ているだけで感じる圧力に、ム・ジカが感嘆の声を漏らす。
「ねぇ、ほんとにこれで大丈夫なのかな」
 後ろから聞こえた声に、ム・ジカは声のした方を振り向く。
 そこでは、チャドが不安そうにクリスタルケージを眺めていた。
「大丈夫でしょう。これまでのキャラバン達も、そうやってミルラの雫を集めてきたのですから」
 チャドの言葉を聞いたイーリアスが、笑った。その言葉を聞いたチャドの表情が、険しくなった。馬鹿にされたと思っているのだろう。しかし、一瞬の後には、その表情は消え去り、いつもの、にこやかだが、イーリアス相手には若干引きつる顔つきに戻る。
「でも、属性があるらしいじゃないか。初めてなんだぜ?不安は無いのかよ」
 それを聞いたイーリアスが、首を傾げる。
「不安?」
「・・・・・・チャド、ほら、ユークだから」
「む。その発言。差別発言だと判断しますよ」
 エリンの発言に、イーリアスが笑いまじりに言い返す。それに、エリンも笑い返す。
「ごめんごめん。別に悪い意味じゃないの。ユークは他の民よりも研究熱心で、恐怖心とか、チャドみたいな不安を感じても、好奇心を優先するでしょう?それはとてもユークらしくて、良いことだと思うわ」
 エリンの言葉を聞いたム・ジカは、頬が緩むのを感じる。ティバの村で暮らしているキアランも、恐らく同じことを言うだろう。人の、他の人とは異なるところを見つけ、それを良い方向に受け止める。クラヴァットの二人は、こういうところが似ている。だから、この二人の周囲には人が絶えないし、笑いも絶えない。
 ム・ジカも、村にいた頃から、二人のそういうところをうらやましいと思っていた。
 自分は、そういう風には思えない。
 他の人や、種族の、己と違うところを感じても、そのまま流す。深く考えない。人は人、自分は自分、だ。キアランやシーベークは、そこが自分の良いところだと言ってくれるが、そういう評価を聞いても、どう反応すれば良いのか分からない。
「お前ら、そろそろ行くぞー」
 とにかく、瘴気ストリームの前で立ち止まっていても仕方が無い。
 自分たちはミルラの雫を集めて、村に持ち帰らなければいけないのだ。持ち帰らなければ、キアラン達と再びばか騒ぎをすることも出来ない。今は目の前にある瘴気ストリームを突破しなければならない。
「にぃは怖くないの?」
 チャドが聞いてくる。その言葉に、ム・ジカは首を傾げる。そう言えば、瘴気ストリームを目の前にして、感動こそすれ、恐ろしいとは思わない。
「ま、なるようになるんじゃないか?」
 村で瘴気ストリームについて聞いた時も、中に魔物が居るとは聞いていない。個人的には、ジャイアントクラブと渡り合った方が恐ろしかったとも思える。
 なにしろ、自分の何倍もある蟹なのだ。今更ながら、よく生きているなとおもう。
 それに比べれば、瘴気ストリームなど、普段から接している瘴気の、少し濃い程度のものだろう。クリスタルケージがどうにかしてくれるに違いない。
 と、言うようなことをチャドに説明すると、口を大きく開けた。
 どうやら呆気にとられているらしい。
 もっとも、ム・ジカは、ル・ジェとの会話があったからこそ、無事と思える裏付けになっている部分もある。
 個人用のクリスタルで瘴気ストリームを越えることが出来るのだ。村に代々受け継がれるクリスタルケージに、不可能な訳が無い。
 チャドも納得したようなので、一同は瘴気ストリームの中に入る。
 中は、目に見える程の瘴気が渦巻いていた。外にいる時よりも、濃度を遥かに増したそれは、クリスタルケージに守られていても、息苦しさを感じる程だ。
「おぉー。奇麗なもんだな」
 渦巻く瘴気の先に目を凝らせば、葉の無くなった木々の周囲を、瘴気の帯が渦巻いている。薄暗い中、微かに発光しているようにも見えるその光景は、とても幻想的なものだ。見上げれば、何故薄暗いのかが分かる。木々の葉が日の光を遮っているのだ。見上げなければ、木の葉を見つけることが出来ないのもそのためだ。
「なんか不気味だね・・・・・・」
 チャドが呟く。
「そう?私はム・ジカさんに賛同。どの種族も作り出せそうにない。ほんとにすごい」
 イーリアスが、チャドの言葉に首を傾げた。
「これから何度も通るうちに、この感動も無くなるのかなぁ・・・・・・」
 エリンに至っては、既に先の、この感動が無くなることを心配している。
 それぞれに違う考え方をしていることに、ム・ジカは頬が緩むのを感じる。
 自分の考えを押し付けたり、決め付けで行動することほど人生の幅を狭くするものはない。その点、自分たちは大丈夫だ。他の人との意見は受け入れるし、それで意見を左右されることも無い。
「さて、そろそろ行くか」
 ム・ジカは、クリスタルケージを担ぎ上げると瘴気ストリームを抜けるべく歩き始めた。
「あ、待ってよ」
 それを見たチャドが、ム・ジカの後を慌てて追う。
 エリンとイーリアスも、顔を一度見合わせると、二人の後を追うために歩き出した。
「・・・・・・なんか、歩きにくいんだけど」
「・・・・・・すごい向かい風って感じだな」
 瘴気ストリームの先に向かって歩くにつれ、向こう側からの風が強くなる。その勢いは、前に向かって進み続けなければ、押し返されてしまうほどだ。
「えぇい!鬱陶しい!」
 ム・ジカが、それまでよりも力強く足を前に出す。ここを突破しなければ、ミルラの雫は集めることができないのだ。ならば、進むしかない。
「おい!頑張れよ!雫集めの旅は、まだ始まってないぞ!」
 ティパの村では、キャラバンメンバーの交代は、5年ほどだ。5年経てば、新しいメンバーに引き継ぐことが、村全体の、暗黙の了解となっている。
 そのため、ム・ジカたちの旅は、まだ始まってすらいない。初めの一年目が終わって、ようやく旅が始まったと言えるのだ。
 ム・ジカの言葉を聞いた他の3人も、歯を食いしばり、足を踏み出した。
 その瞬間、まるでガラスが割れたかのような、澄んだ音が辺りに響き渡った。
「?」
 突然響いた音に、戦闘態勢をとり、周囲を見渡す4人。しかし、その音源になるようなものは見あたらない。そして、変わったことがもう1つ。それまであった風の抵抗が無くなっているのだ。
「な、なにがおきたの?」
 チャドが、周囲を見渡しながら言う。しかし、その疑問に対する答えを、この場にいる誰も持ち合わせていない。その場にいる全員が首を傾げている。
 しばらくして、身の危険が無いと分かると、恐る恐る臨戦態勢を解除していく。
 ム・ジカは、もう一度周囲を確認し、危険が無いことを確認してから、ため息を吐いた。
「ま、分からんことは深く考えても仕方ない。抜けるぞ」
 そう言うと、再び歩き始めた。
 ム・ジカに続いて、イーリアス、エリンも歩き始める。
「どうしたチャド。置いてくぞ」
 この環境に置いていかれたのでは溜まったものではない。軽い気持ちで言った言葉だったが、効果はてきめんだったようだ。慌てたようすでチャドも駆け出した。
 風がないのはほんの少しの間だった。
 歩き始めると、すぐに風が吹き始めた。しかし、それは先ほどまでの、正面から押し付けるような風ではなかった。後ろから背中を押してくれるような、そんな風だ。
 ム・ジカは、皆に気がつかれないように背後を伺う。当然、そこには何の姿もない。
 背中を押されるようなその感覚に、母の温もりを感じた。そんなことを言う訳にもいかないので、正面に意識を戻した。
「・・・・・・なんかさ、さっきかぁちゃんに背中押されてるような気がしたんだよね」
「おやおや。両親は健全でしょう?」
「そうなんだけどさ」
 チャドの言葉に、ム・ジカは驚く。
「まぁ、私もおなじようなことを感じていましたが」
 イーリアスの言葉に、チャドがイーリアスを下から睨んでいるのが見える。
 それを笑って見ているエリンも、恐らく同じことを感じたのだろう。ム・ジカは、もう一度背後を見る。そこには当然何もない。しかし、ここにいる全員が、同じことを感じたのならば、目には見えないが、確かにそこにあるのかもしれない。
 そう思ったム・ジカは、顔を正面に向け、瘴気ストリームの出口を見る。
 日の光が、ひどく懐かしく感じる。

 瘴気ストリームを抜けた。
 瘴気ストリームを抜けた先の空気は、抜ける前の空気よりもさっぱりしている気がした。その理由を探すと、周囲の海が少ないことに気がついた。村にいた頃は、海が身近にあることが当然だったので、少し寂しく感じる。これも、旅の楽しみかたのひとつだろうか。
 ム・ジカは周囲を見渡す。
 背後には瘴気ストリームがあり、そこからは辺りよりも寒いと感じる風が吹き出している。しかし、そこに入る前に感じていた息苦しさは無い。
「さて、雫集めに行くか」
 村長の話では、この辺りにキノコの森と呼ばれる場所がある筈だ。今居る場所からは見えないので、もう少し先にあるのだろう。
 馬車にクリスタルケージを乗せると、御者台に乗り込む。
「お前ら、早く行くぞ」
 馬車の後ろでは、未だに3人が瘴気ストリームを見上げている。
「はーい」
 ム・ジカの言葉に返事をしたのはエリン。他の2人も瘴気ストリームに背を向け、馬車に近寄る。そのことを確認したム・ジカは、手綱を握る。パオも、その気配を感じたのか、自然に歩き始めた。
 
 どれほど歩いただろうか。
 瘴気ストリームを抜けた時から、日の高さがそんなに変わっていないので、時間はそれほど経っていないだろう。
 目の前に、常識では考えられないような大きさのキノコが見え始めた。いつの間にか、足下にも、拳大のキノコがいたるところに生えている。
「そろそろ馬車を安全なところにおいておくか」
 ム・ジカは、馬車から飛び降りると、手綱を引き、どこかに係留できるところがないか見渡す。すると、左手、窪地になったところに立派な木が一本生えているのが見えた。そこには既に馬車が一台係留されており、どうやら先客が居るらしいことを知らせてくる。
「?どこの人たちかな」
 同じものを見つけたらしいチャドが声を上げる。
「分かりません。ですが、ここに居るということは、キノコの森に用があるのでしょう。もしかしたら、中で出会うかもしれませんね」
 イーリアスの言葉に、ム・ジカも頷く。とにかく馬車を係留すべく、馬車を先に進める。
 目的としていた木の根元まで来ると、所有者の分からない馬車のパパオマスが、鼻を大きくならし、警戒心をあらわにした。パパオマスの態度を気にすること無く、その馬車の近くに寄ったことで、見えていた馬車が、どこのキャラバンのものであるということが分かった。
「どうやらアルフィタリアのキャラバンみたいだな」
 そのことを確認したム・ジカが言う。根拠となったのは、馬車の所々にある傷だ。他の民が使うよりも、遥かに低いところに傷がある。そうかと思えば、ム・ジカの頭よりも少し高いところに刃物で切ったような傷もある。それは、リルティ特有の生活痕だ。ほかにも分かったことがある。旅慣れていないのか、馬車の係留がへたくそなのだ。これではパパオマスが逃げてしまうかもしれない。さらに馬車もよくない。馬車に傷がつくのは仕方が無い。ム・ジカ達の馬車にも、長年使われたことで多くの傷がついている。しかし、あまりにも整備がされていない。
「あれ?でも村の近くにもいませんでしたか?」
 エリンの言葉に頷く。
「まぁ、アルフィタリア城は広いと聞く。いくつかキャラバンがあるんじゃないか?」
「でも、クリスタルケージは?二つもあるの?」
「よく考えてみろよ。俺たちの村は比較的新しい。でもクリスタルケージはあるだろう?ってことは、アルフィタリア城ほども大きくなれば、恐らく予備はいくつかある筈だ。それをどうやってかは知らないが、うちのご先祖様が貰い受けたんだろう」
 ム・ジカは、クリスタルケージに対する己の見解を披露する。それを聞いた3人は呆然とする。
「・・・・・・なんか、ム・ジカさんが言うと、強奪、じゃ無いけど、許可を得ずに持って来たように聞こえる」
「人の意見聞いといて、まっ先に言うことがそれか!」
 エリンの言葉に、ム・ジカが吠える。どこかからケージを持って来たのは村長の祖先だ。するとそれはクラヴァットであるので、エリンかキアランの祖先が泥棒ということになる。
 ということをム・ジカは言い返した。
「え?いや、そんなことは無いでしょ。だって、そんなことしてたら大騒ぎになってると思うし。ティパの村が今まで存続出来ないと思う」
「お前がこっちを泥棒扱いしたから言い返せばお前、真剣に反論してきやがって・・・・・・」
 エリンの言葉に、ム・ジカが脱力する。
 2人がそんなことをやっているうちに、チャドが馬車の係留を終えた。
 背後からカチャカチャと金属同士がぶつかり合う音が聞こえる。
 その音に、ティパの村のキャラバンが音のする方に振り向いた。そこには、金属をにぎやかに鳴らしながら走ってくる、3人組のリルティの姿があった。
「整列!!」
 ティパの村のキャラバンの目の前に来たリルティたちは、リーダーと思われる人物の号令に従い、横一列に整列した。ム・ジカたちが、内心で怯んでいると、号令を掛けた人物が、一歩前に出て来た。
「我々はアルフィタリアの警衛隊である!!貴様らの所属を明らかにせよ!!」
 目の前のリルティの台詞に、ム・ジカ達はお互いに顔を見合わせる。
「何をしておる!!早くせぬか!!」
「あー、えっと。俺たちはティパの村のキャラバンなんだが」
 それを聞いた目の前のリルティが、鼻を鳴らした。
「なんだ、辺境の村か。全員休め」
 ム・ジカの言葉を聞いたリルティが、横柄な態度をあらわにする。リーダーの号令に、後ろの二人も身体を脱力させる。
「リルティの民がおるからどこの部隊かと思えば、ティパの村だと?ふん!お前も、セルキーなんぞに率いられて、恥を知れ!!」
「!何を・・・・・・!」
 アルフィタリア城のリルティの言葉に、チャドが憤る。ム・ジカはつかみ掛かろうとしたチャドの頭を、上から押さえつけることで、その動きを封じた。
「いやー。すみませんね。辺境で。でもおれらも瘴気から身を守るためにミルラの雫がいるんで」
 押さえつけているチャドがおとなしくなるのを手で感じながら、ム・ジカは目の前のリルティに言葉を紡ぐ。今は、目の前の3人組が、何の目的でクリスタルの庇護下から飛び出し、危険な瘴気の中にいるのかを知ること。それがもっとも重要だ。
「それで?あんたたちはどうしてここにいるんだ?ミルラの雫が目的じゃないんだろう?」
 ム・ジカの言葉に、アルフィタリア城のリルティは鼻を再びならす。
「我らは、我らが王の命に従い、ミルラの木のある場所の巡察中だ。我らがアルフィタリア城のキャラバンに限って、そんなことは無いと思うが、万が一ということもある。そうならんためにも、こうして異状が無いかを確かめているのだ」
「・・・・・・今ここにいるってことは、その作業は終わったってことで良いのか」
 ム・ジカが、若干の嫌な予感とともにアルフィタリア城のリルティに聞く。ム・ジカの嫌な予感は、相手の荒々しい鼻息で的中したことを告げられた。
「まだまだこれからだ」
「そのあいだはいることはできるのか」
「立ち去れ」
 その言葉を聞いたム・ジカは、馬車に振り返る。そこには、先ほどチャドが係留を終えた自分たちの馬車がある。ム・ジカは、馬車に歩み寄ると、係留用のロープをほどく。
「ちょっと!ム・ジカさん!何してるんですか!」
「決まってんだろ。このままマール峠に行く」
 ム・ジカが、メタルマイン丘陵の中部に位置する、集落の名前を口にする。
「そんな!じゃあ、ここのミルラの雫はどうするんですか?!」
「カトゥリゲス鉱山のミルラの雫を集めた後、村に帰る前に、もっかいここに立ち寄る。ここの雫はその時に集めれば良い」
 ム・ジカの台詞に、エリンが口を開ける。ム・ジカはその顔を視界の端でとらえると、誰からも見えない角度で口端を歪める。
「で、にぃは何考えてるの?」
 しかし、ム・ジカのその表情を見ていた者がいた。チャドだ。
「何も?」
 ム・ジカはチャドの追求に慌てることなく返事をする。しかし、そのム・ジカを見るチャドの目は、期待に満ちている。その目を見たム・ジカは、内心であきれる。確かに、村を馬鹿にされたことは腹立たしい。ミルラの雫を集めることが出来なかったのも計算外だ。
 しかし、アルフィタリア城のリルティ達は、王の居城を守っているという誇りから、往往にして他の村や町を見下す傾向にある。そのことを、商人である父から教わっていたム・ジカは、別にきにならない。その誇りを利用して、商売に活かすこともならったからだ。
 ミルラの雫を集めることが出来なかったのも予定外ではあったが、先に鉱山で鉄を取り、武器を強化する。その後キノコの森に入れば、当初よりも攻略は簡単になるだろう。一度立ち寄ったということで、道に迷うということも無さそうだ。
 それらのことを計算すると、ム・ジカの怒りはそれほどでもない。
 が、それは心情の話。ここで素直に引いては、向こうに舐められるかもしれない。
「・・・・・・あいつらの馬車、結構痛んでる。おまけにパパオマスは人に慣れていないのか、俺たちが近寄っただけで軽く暴れる始末。あれじゃあ、そのうち車軸が折れてしまう。折れたことで動きにくくなった馬車にいらついて、パパオマスがちょっと暴れれば、手綱が切れてしまうかもしれない。そのことを説明しようかどうか迷ってるだけさ」
 係留ロープをほどき、パパオマスに食べ物を与えながら、ム・ジカが何でもないことのように言う。それを聞いたチャドは、ム・ジカと同じ表情を浮かべた。この辺りは、村で長年の付き合いのある二人だ。チャドはム・ジカの言いたいこと、求めていることを瞬時に把握した。
「それは説明した方がいいね。多分無駄になるけど」
「そうか。説明した方がいいか。じゃ、ちょっと行ってくるから、後よろしく」
 ム・ジカは、チャドの肩を叩くと、アルフィタリア城のリルティ達の方に向かって歩き出した。


「・・・・・・で、いい加減どう言うことか説明してください」
 キノコの森をいったん後にしたティパの村のキャラバンは、マール峠に向かって馬車を進めていた。御者台に座り、手綱を引いているのはム・ジカだ。その右隣で、周囲の警戒をしていたエリンがム・ジカに質問をした。
 どうやら、先ほどのチャドとの会話の意味が分かっていないらしい。
「別に?ただ、俺はアルフィタリア城の奴らに、馬車がかなり痛んでるから、マール峠で修理した方が良いですよ、とそう言っただけさ。ま、予想通り、セルキーの忠告なんか聞き入れてくれなかったけど。あいつらはあのあとリバーベル街道に行くらしいぜ」
「さっすがにぃ。馬車は瘴気ストリームを抜けたら壊れる位だったよ」
 チャドが横からム・ジカとエリンの会話に混ざる。
 チャドの言葉に、エリンが頭の上で疑問符を浮かべている。
「エリンさん。こちらへ」
 そのエリンに、救いの手が差し伸べられた。馬車の後方警戒をしていたイーリアスだ。
 エリンが、疑問符を浮かべながらも、イーリアスの下へ歩いていく。
 しばらくして、エリンが怒りをあらわにしながら歩いて来た。
 どうやらイーリアスに事情を説明されたらしい。
「ちょっと!なんてことしたの!」
「だから、馬車が危ないですよって伝えただけだよ」
 エリンの怒声にも、ム・ジカはひょうひょうと応える。
「チャド!!」
 ム・ジカに何を言っても無駄だと悟ったエリンは、その矛先をチャドに変える。チャドは、一瞬びくりと身体を震わせた。
「べ、別になんにもしてないよ。ただ、にぃの言葉が本当かどうか確かめただけで」
 エリンは、チャドの言葉を聞くと、しばらく震えていた。
 恐らく、彼女としては、アルフィタリア城の馬車に手を加えたチャドと、それをしむけたム・ジカを叱りたい。しかし、雫集めを邪魔されただけでなく、村を馬鹿にされたことで、何か意趣返しをしたいと思っていたのも事実。そのジレンマに震えているのだろう。
「今度からはきちんと私の許可を取ってからやること!!」
 そして、どうやら今回のことは、エリンの良心を、アルフィタリア城のリルティに対する怒りが勝ったようだ。二人にそう言い残すと、ム・ジカの右隣から、馬車の右隣まで下がった。そのまま、イーリアスと何かを話しているようだ。時折、風にのって二人の声が聞こえる。
 ム・ジカは、チャドと顔を見合わせると、幼い頃からいたずらが成功した時に浮かべる笑みで、笑い合った。
 マール峠まで、後少し。


←BACKFFCC TOPNEXT→
inserted by FC2 system