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 エリンは、いつもより荷台が騒がしいなと思った。
 雫集めの旅を始めてまだ数日しか経っていない。
 リバーベル街道のジャイアントクラブを倒した彼女達だが、初めての戦闘で、予想以上に疲れていた。初めての戦闘という事もあり、それぞれがそれぞれに反省点や、思う所もあった。  反省会と言う事で、話し合い、今後に生かすことで一致した。
 しかし、例えどんなに優秀な人員がそろい、作戦があったとしても、それを生かすだけの活力が無ければ意味が無い。
 その活力を確保し、疲れを取るためにも休憩がしたかったのだが、マール峠にはまだ距離がある。なにか良い案は無いかと考えていると、チャドが提案を一つした。それは、荷台で交代で休むといったものだ。
 クリスタルの庇護下にない場所では、魔物との遭遇の危険がある。しかし、それもダンジョンに入らなければ、魔物の集落がある訳ではない。つまり御車台に乗り、パオを制御する者。そして欲を言えば3人欲しいが、護衛は1人で十分ではあるのだ。
 結果として、チャドの提案で、交互に荷台で休むようにした。
 今はム・ジカが休んでいるのだが、寝返りでもうって荷物を崩してしまったのだろうか。
 少し心配になったので、荷台の中を覗いてみた。
「きゃぁぁぁぁ!!」
 そこにあったものをみて、思わず悲鳴を上げる。
「どうしたの?!」
 悲鳴を聞いたチャドとイーリアスが、馬車の前方から駆け寄ってくる。
 そして、チャドより馬車に近かったイーリアスが、エリンの様子を見て、エリン越しに馬車の中を覗き込む。
「あらあら」
 そう呟いたイーリアスは振り返ると、馬車にたどり着いたチャドを抱き上げた。
 チャドは必死に隠しているつもりかもしれない。しかし隠せていると思っているのは本人だけで、ユークを不気味に思っていることはバレバレだ。そのユークにいきなり抱き上げられたものだから、完全にパニック状態になったチャド。しかし、周囲に知られたくない為、それを隠す為に必死になり、こちらを気にする余裕はなさそうだ。それを見送ると、エリンは再び荷台の中をみる。そこにある者をどうしようかと思いながら。

 ム・ジカは荷台の中で馬車の揺れに身を任せ、体を休めていた。
 魔法に頼らずとも遠距離攻撃が可能な彼は、ジャイアントクラブとの戦いで、周囲を気にしながら戦っていた。ジャイアントクラブとの戦いでは、時折、リバームーと呼ばれる、一見可愛い小動物が現れる。外見は可愛いのだが、魔物に変わりはない。ム・ジカは彼らが現れると、前線で武器を振るっているチャドや、エリンが攻撃に集中できるように終始気を張っていた。
 それを知っているのは、同じく後衛で魔法での援護と、クリスタルケージの管理をしていたイーリアスのみだろう。しかし、ム・ジカのやっている事をいち早く察知したイーリアスは、ム・ジカを手伝うのではなく、リバームーの出現を報告するのみだった。
 それも立派な手伝い方だとム・ジカは思うのだが、結果として、イーリアスが発見したリバームーの処理も請け負う事になり、やる事は増えてしまった。
 慣れない事をジャイアントクラブが倒れるまで続けていた為、眠るつもりはなかったのだが、疲れが溜まっていたのだろう。いつのまにか眠っていたようだ。気がつけば、それまではなかった筈の人影がある。何かを探しているらしく、荷物を漁っている。
「なに探してるんだ?」
「チッ!!」
 寝ぼけた頭で、上体を起こしながら当然のように尋ねると、舌打ちで返された。そのことに懐かしさを覚える。姉が実家にいた頃は、探し物をしている所に手伝いに行けば、よく舌打ちをされたものだ。その理由は様々で、来るのが遅いだとか、余計なお世話だとかだ。さぁ、今回は何だと思っていると、姉だと思っていた人影が攻撃してきた。こちらのこめかみを狙った鋭い一撃だ。しゃがんで回避しながら相手を見ると、下着が見えた。
「白!!」
 思わず叫ぶと、2発目が飛んできた。しゃがんでいるこちらを蹴り飛ばす一撃だ。揺れる荷台でよくもそこまで足技が使えるなと関心しながら、こちらも体制を整え半歩下がる。そこで改めて相手を見る。セルキーの女性で、恐らく自分より年下であろう彼女は、セルキー特徴の整った顔立ち。肉付きのいい身体で、種族特有の露出の激しい服装だ。飾り気は無いが、唯一といっていいアクセサリーである髪留めには携帯型のクリスタルをつけている。それは
「・・・・・・盗人か」
 ム・ジカがそう呟くと、セルキーの姿勢がそれまでよりも低くなる。無言の肯定だ。
 その事で、寝ぼけていたム・ジカの眠気が吹き飛ぶ。よく考えるまでもなく、ここは村の外で、今は雫集めの旅の最中だ。2年前に村を出た姉がここに居る訳が無い。
 それを見たム・ジカは、不適に笑うと、彼女に一歩近づいた。思わず一歩下がってしまった彼女が、それを恥じるように拳を繰り出してくる。それを左半身を捻る事で回避。左半身を戻す勢いでラリアットを放てば、相手が仰け反るようにして回避。重心が後ろによったところで左足をで相手の足を払う。転ばす事が目的だ。しかし、タイミング悪く馬車が大きくはねてしまったため、ム・ジカの予想以上に勢いがついてしまった。このままいけば、相手は荷台に頭を強くぶつけてしまう。
 結果として、相手のセルキーは頭を打つ事はなかった。頭を打ちそうになった彼女の後頭部に手を添えてやる事で、ム・ジカが未然に防いだからだ。
 しかし、相手がム・ジカの髪を掴んできたので、ム・ジカも巻き込まれ、一緒に倒れた。
 押し倒すような形になったため、顔の距離が近くなる。ム・ジカは、盗賊の後頭部にあてていた手を素早く抜き取ると、こちらの髪を掴んでいた相手の手を掴む。そして、転倒させる為に掴んだ手と合わせて、相手の頭上に両手を拘束する。それを左手でまとめて押さえれば、相手は、観念したようには見えないが、圧倒的不利になった。この状況では抵抗するだけ無駄だと判断したのか、こちらを睨む目を除き、力を抜いた。
「盗人だな?一人か?何か盗んだか?」
 ム・ジカの質問に、下のセルキーは不適に笑う。
「さぁ?どうだろう」
 投げやりに見えるその態度に自然と眉間に皺が寄る。
「素直に言え。こっちも生活がかかってんだ」
「だったら喋らせてみればいいじゃない」
 ム・ジカの眉間に寄った皺が更に深くなる。
「どういう・・・・・・」
 意味だ。と続けようとした言葉は、外から入ってきた光に遮られる。自由な方の手で光を遮りながらそちらを見れば、御者台からこちらを見るエリンと目が合った。一瞬間があり、悲鳴が上がった。下にいたセルキーも驚いたのかそちらを見る。
 二人してそちらを見ていると、ユークが荷台を覗き込んできた。それは一瞬で、ム・ジカが顔を向けるとほぼ同時に、彼女は視界から消えた。
 後に残されたのは、一見、荷台でイチャついているように見える一組のセルキーと、それを見つめるクラヴァットのみだ。遠くから、未だ声に幼さを残すリルティの抗議の声が聞こえる。

 街道から少し外れた小高い丘。そこに、二人のセルキーと、一人のクラヴァットがいた。女性が二人に、男性が一人だ。そのうち、女性のセルキーは木に縛りつけられている。そして、もう一人の女性、クラヴァットが縛られた女性の身体から離れる。そして、立ち上がると、振り向くと、その場にいる最後の一人。男性のセルキーに向き直る。
「えーと、彼女は何も盗んでいませんでした」
 エリンの報告に、ル・ジェと名乗ったセルキーが鼻を鳴らす。
 それを聞いたエリンが、容赦なく頭を叩いた。
「もう!女の子が鼻なんてならすもんじゃありません!」
「うるせー!オレの勝手だろ!?」
 ム・ジカが、エリンに対して、ル・ジェが盗賊だと説明したときは少し怖がっていた。しかし、ル・ジェにいくつかの質問をし、エリンの方が年上である事が分かると、エリンはル・ジェの悪いと思う癖を直そうと、いちいち突っ込みを入れている。
「もう!また!男の子みたいな言葉遣いして!」
「いちいちうるせぇなぁ!おい!あんたもこいつどうにかしてくれよ!同じセルキーだろ!?」
 あげくの果てには、敵対していたム・ジカに助けを求める始末である。
 助けを求められた事に、ム・ジカは思わず苦笑する。
「おいおい、俺が襲ってきた盗賊を助ける意味があるか?」
「意味はなくてもさぁ!こう、同種族としての哀れみとかさぁ!」
「じゃあ聞くけどよ、同じ状況だったらお前、俺を助けるか?」
「・・・・・・くそッ!」
 どうやら助けることは無いらしい。まぁ、仕方が無いよなぁ。と思いつつも、ル・ジェのあまりにも素直すぎる反応に、ム・ジカは苦笑する。一人で世界を歩いて行くのならば、もう少し腹芸は出来た方がいいだろう。
 そして、ル・ジェの反応をみて、行動に出たものがいた。いうまでもない、エリンだ。ル・ジェの口から出た言葉を聞いたエリンは、再びその右手を振り上げた。そしてその手を使ってル・ジェの頭に振り下ろす。
「いッてェ!」
 ル・ジェの頭から小気味が良い音がする。
 その、予想以上に大きな音に、ム・ジカも肩をすくめる。
 そう言えば、チャドとイーリアスはどこにいるのだろうと周囲を見渡す。
 ぐるりと首を回すと、今居る丘よりも眼下、街道に止めてある馬車の御車台にチャドが座って、宙に浮いた足をブラブラと揺らしている。特にやる事も無いのか、自分の槍を手入れしている。
 イーリアスはどこだろう、と首は固定したままでイーリアスを捜す。馬車があそこにあると言う事は、クリスタルケージもあそこにあると言う事だ。クリスタルの加護の範囲はそんなに広くはない。馬車を中心に捜せば、イーリアスも見つかると思ったのだ。
 予想通り、イーリアスは馬車の近くに居た。
 しかし、直接その姿を見た訳ではない。馬車の影、僅かに揺れる羽根を見たのだ。幌に紛れるような色をしたその羽根は、同じ村で育ったため見慣れている。見間違える筈も無い。
 二人の位置を把握したことで、ム・ジカは一つの疑問を得る。
「なぁ、ちょっとクリスタルケージから離れすぎじゃないか?」
 クリスタルの加護の外に出ると、瘴気に苦しむ事は、村からはなれ、親達の目が届かなくなった所で試している。クリスタルの加護かが無くなると生きていけなくなるというのは、散々聞かされているので、知識としては知っているのだが、実際のところどうなるのか知りたがったのだ。……主にイーリアスが。


 イーリアスは、皆が止めるのも聞かずに、加護の外に歩き出た。
 慌てるム・ジカたちをよそに、イーリアスはクリスタルの加護の外をしばらく歩いた。
 どれほどの時間が経ったかは分からないが、エリンが痺れを切らし、イーリアスを連れ戻した。それまで、イーリアスがあまりにもクリスタルの加護に自然にいたため、呆然としていたム・ジカとチャドだったが、イーリアスが馬車の近くに戻り、咳き込むと、慌てて駆け寄った。その時ばかりはチャドもユークが不気味だとは思う暇もなかったらしい。
「大丈夫なのか?!」
「ケホッ。いえ、かなり苦しいです。ですが、クリスタルの加護の外側に行けばすぐに死ぬ訳ではないと分かっただけでも収穫です」
「いや、そんなこと俺とチャドは知ってるけど」
「・・・・・・え?」
 イーリアスだけでなく、エリンからも向けられた視線に、ム・ジカは思わずたじろぐ。 「な、なんだよ。だから止めただろ?」
「ム・ジカさんがやったってことは、その隣には、キアランもいたんですね・・・・・・」
「お、おう。言っとくけど、結構昔だぞ。初めてやったのはな」
 ム・ジカの言葉に、イーリアスが首を傾げた。どうやらイーリアスの方は、エリンほど深刻にム・ジカの言葉を深刻に受け止めていないらしい。イーリアスの反応に、ム・ジカはわずかに胸を撫で下ろす。
「よくある話だよ。餓鬼の度胸試しさ。村の境界線の外側にどれだけ出ていられるかっていうな」
 ム・ジカの言葉に、エリンが深い溜息をつくと同時に俯いた。
「で?」
 エリンが顔を上げながらム・ジカを見る。その目尻は笑っているが、口元と目が全く笑っていない。
「それをやり始めたのはどこの誰なの?」
「あー……」
 言葉に詰まるム・ジカを見て、イーリアスが笑い声を上げた。一見すると、兜が揺れているように見える。それを見たチャドが怯える。
「まぁまぁ。いいじゃないですか。制止を聞かなかった私にも非はあります」
 イーリアスがそう言ったことで、エリンの空気が緩む。
 ム・ジカが追求が終わったと思い、密かに再び胸を撫で下ろしていると、エリンが再びム・ジカを睨みつけた。
 村に帰った時が恐ろしい。ム・ジカは村に帰るまでにエリンがこのことを忘れてくれるのを期待するしかない。


 ム・ジカは、改めて自分たちと馬車との距離を確認する。やはり、自分たちはクリスタルの加護の範囲外にいる。
「おい、エリン。どうして俺たちは無事なんだ。今俺たちは、クリスタルの加護の外側、瘴気の中にいる。普通なら瘴気にやられてるぞ」
 ム・ジカの言葉にエリンが不思議そうな顔をする。そして、自分たちの位置と、、クリスタルケージのある馬車の位置を確認する。そして、慌てて口元を押さえる。せめて吸入する瘴気の量を少なくしようとしたのだろう。
 それをみて、ム・ジカが体の正面で手を左右に振る。
「いやいや、どう考えても、通常なら致死量の瘴気の吸ってるし。今更そんなことしても無意味だし」
「で、でも!!」
 エリンの言いたいことは分かる。生まれてからずっと、クリスタルの加護が無ければ生きていけない。そう教え込まれてきたのだ。しかも、どこまでクリスタルの加護が働いているかは、はっきりと分からないのだ。クリスタルの加護の外側は、瘴気によってどこか揺らいでいる、気がする。そんなあやふやな感覚で認識しているだけなのだ。
「確かに今更そんなことしてもねー・・・・・・」
 ル・ジェにも同意され、エリンの頬が赤く染まる。
 そして、ル・ジェがどこか誇らしげに顎を上げた。そんなことをしても、後ろ手に拘束されており、ム・ジカとエリンの顔の下に居る為、どうしても見下ろす形になってしまう。結果的に、ル・ジェのその態度はどこか滑稽だ。
「感謝しろよ。お前らがクリスタルケージから離れても無事なのは、オレのおかげなんだからよ」
 ル・ジェの言葉を聞き、その髪に留めてある髪飾りを見て、ム・ジカは納得する。その髪には、暖かな光を発している宝石のはまった髪飾りがある。その光は、必要不可欠なものであると同時に、とても希少なものだ。
「個人用クリスタル?!そんなものどこで?!」
 口を開こうとしたム・ジカの隣で、ム・ジカよりも先にエリンが叫ぶ。ム・ジカは、言うことがなくなり、口を閉じる。
「貰ったんだよ。これがないと、住むところのないオレは、瘴気にやられて、野たれ死にするしかない」
 ル・ジェが自嘲気味に笑う。その顔を見たム・ジカにはかける言葉をもっていない。しかし、隣にいたエリンは違ったようだ。
「人がいるところに居ればいいじゃない」
 首を傾げながら言ったエリンの頭を、ム・ジカが軽く叩く。
 叩かれたエリンは、不満そうにム・ジカを睨む。ム・ジカは何もなかったかのようにル・ジェを見た。
「そのクリスタル、瘴気ストリームは越えられるのか?」
 ム・ジカの質問に、エリンは不満そうな表情を消し、不思議そうな顔をした。ル・ジェもまた、自嘲気味の表情から、安堵の表情に変わる。
「当然だろ。もしも越えられなかったら、ずっとこの地域で狩や盗みで生活してることになっちまう」
「そうか。それを聞いて安心した」
 ム・ジカの言葉に、エリンが首を傾げる。どうやら、未だにル・ジェの置かれている状況がわかっていないらしい。ル・ジェも、エリンを見て、表情が柔らかくなる。
 それを見たエリンが少し膨れる。ム・ジカとル・ジェがわかって、自分がわからなかったのが不満らしい。それを横目で見たム・ジカは、ティパの村にいるキアランを思う。エリンのこの仕草をみたら、キアランはエリンの頭を撫でただろう。
「今から瘴気ストリームを超える。ル・ジェにも来てもらう」
 ム・ジカの言葉を聞いた二人は、揃ってム・ジカの顔を見る。双方ともに驚いており、エリンは目を見開いており、ル・ジェは不審そうに眉を顰めている。
「単独で瘴気の中を踏破できる、瘴気ストリームも越えられる。そんな厄介な泥棒を、村の近くに置いておきたくない。たとえ気休めだとしても、瘴気ストリームの向こう側に行ったことを確認しておきたい」
 それを聞いたエリンは、やっと納得したようで、小さく頷いていた。ル・ジェは、機嫌を悪くしたようで、よそを向き、頬を膨らませた。
 それを見たム・ジカは、不覚にもキアランの気持ちがわかってしまった。ル・ジェの頭を撫でたくなる。
「悪いな。村にかかる火は出来るだけ少なくしたいんだ」
「分かってるよ。オレには分からないけどな」
 その顔に再び自嘲の笑みが蘇る。
「悪いな」
 ム・ジカの言葉に、ル・ジェが首を軽く左右に振る。
「別にいいよ。自分の大切なものから危ないものを遠ざけようとするのは当然だ。・・・・・・オレにはないけどさ」
 ル・ジェの言葉を聞き、ム・ジカはどのような顔をすればいいかわからなかった。結果、ム・ジカはル・ジェの拘束を解くと、馬車を指差した。
「行くぞ。お前と違って、あんまり時間がないんだ」
「・・・・・・そうだな」 
 その言葉を聞いたム・ジカが、馬車に向かって足を踏み出すと、ル・ジェがム・ジカを走り抜いた。
 それを見たム・ジカとエリンが驚き、追いかけようとすると、ル・ジェが立ち止まった。そしてム・ジカとエリンに向き直る。
「早く馬車に乗れよ。早くしないと瘴気に晒すぞ!」
 それを聞いたム・ジカは、馬車のクリスタルケージと、ル・ジェのクリスタルの加護の範囲が飛び地のように重なっていることがわかった。今ル・ジェを追えば、馬車に戻る事は出来なくなる。
「・・・・・・お前はどうするんだ」
 ル・ジェは肩を竦める。
「守るものがオレはなくとも、気持ちはわかる。馬車の速度に合わせて旅するのは相に合わない。安心しろ。村には近づかないよ」
 ム・ジカは離れて立つル・ジェの目を見る。顔は笑っているが、その目は寂しげに細められている。
「・・・・・・道中気をつけて」
 ム・ジカの隣で、エリンが声をかける。ル・ジェはエリンから声をかけられたことに驚いたようだ。一瞬ポカンとした後、今度は顔全体で笑った。
「そう言うことだ」
 続けてム・ジカに声をかけられると、ル・ジェは二人に背を向けた。
「早く行けよ」
「ああ、そうするさ」
 ム・ジカはそれだけ言うと、馬車に向かって歩き出した。
クリスタルケージの加護圏内に入り、振り返ると、そこにはル・ジェの姿はなかった。


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