←BACKFFCC TOPNEXT→

 マール峠を出発したティパの村のキャラバンは、カトゥリゲス鉱山に向かって進んでいた。
 マール峠からカトゥリゲス鉱山まではそう遠くない。ただ、カトゥリゲス鉱山に近づくにつれて、ゴブリンの数が増えてきた。そのため、予定よりも遅れている。
「あぁ、くそっ!!また出てきたな・・・・・・」
 馬車の幌の上からゴブリンが接近してきたのを見つけたム・ジカは、ゴブリンを迎撃するために馬車から飛び降りた。
「またぁ?」
 滲み出る疲労の色を隠そうともせずに、チャドが馬車の荷台から立ち上がる。実際、チャドはよくやってくれている。魔石がない状態では、イーリアスは万全の力を発揮できない。ケアルもない状態では、攻撃に当たった直後にすぐ回復。というわけにもいかず、リバーベル街道のとき以上の緊張を強いられていた。
 そもそも、魔物との本格的な戦闘というものをリバーベル街道でしか経験できていないティパの村のキャラバンには、このゴブリンの数はかなり苦しかった。
「やるしかないだろ。エリンとイーリアスは後方支援。馬車を守れ。チャド、準備はいいな?迎撃するぞ」
 ム・ジカの言葉に、馬車の手綱を握っていたイーリアスは馬車を止め、荷台から出てきたエリンから武器を受け取る。
「気をつけて」
 エリンの言葉に、片腕を上げることで返事とすると、ム・ジカはチャドを伴って馬車の前に出た。
 

 その後も、断続的に襲いかかってくるゴブリンを凌ぎながら、カトゥリゲス鉱山に足を踏み入れたム・ジカたちは、先人たちの苦労を見た。迷路のように張り巡らされた坑道は、入り組んでおり、なかなか先に進むことができなかった。加えてティパの村のキャラバンを苦しめたのは、『ボム』と呼ばれる魔物の存在だ。死に際になると爆発する、というその性質を知らなかったム・ジカたちは、ボムの爆発に何度か巻き込まれ、瀕死の状態になったことも度々だ。そのことがわかってからも、ボムの爆発から逃げるところを他の魔物に邪魔され、爆発に巻き込まれることも数回。
 鉱山の最奥、ミルラの木の手前に来る頃には、全身にすすをまとっていた。
 そして、気を抜く間も無く現れたゴブリンキング。そこでも再び爆発に巻き込まれそうになったが、疲労で頭のおかしくなったチャドと、イーリアスの立て続けに放たれた魔法によってどうにか無事に雫を集めることができた。


「あ゛ー・・・・・・」
 馬車の荷台から聞こえたチャドの声に、エリンは思わず頬が緩んでしまった。いつもあまりだらけることなく、姿勢を正そうと頑張っているチャドがそこまで隙を見せるのは珍しい。村にいる頃から一緒に遊んでいたム・ジカに言わせれば、チャドはそこまで真面目なやつじゃない、ということ。それを聞いたときは首をかしげた。そこ言葉を共感してくれるであろうイーリアスもそのときはは慣れた場所で目を回していたからだ。
「おい、チャド。瘴気ストリームに入るぞ。そろそろ起きろ」
「あ゛ぁ。うん。わかった」
 馬車の後ろから聞こえたム・ジカの声に、チャドが応える声が聞こえる。これから通る瘴気ストリームは、ティパ半島とメタルマイン丘陵にある瘴気ストリームと属性が違うらしい。そのことを村長から聞いたときには、何で見分けるかを結局教えてもらえなかった。どうすればクリスタルケージの属性を変えることができるかも教えてもらえなかったため、これといった対策は行っていない。
 そうこうしているうちに、瘴気ストリームがだんだんと近づいてきた。メタルマイン丘陵にある瘴気ストリームを抜けると、アルフィタリア城のあるアルフィタリア盆地へとたどり着く。
「・・・・・・で、結局クリスタルケージの属性ってなに」
 馬車の荷台から降り、馬車を引くパパオパマスの隣を歩き始めたチャドの口からそんな疑問が出る。
「なんだろうね・・・・・・」
 エリンの方を向かって紡がれたその言葉だが、エリンもわからない。
「まぁ、危なくはないんだろう」
「ほほぅ。本当ですか?入った瞬間に弾き飛ばされるかもしれませんよ?」
 楽観的なム・ジカの言葉を、イーリアスが茶化す。
「まぁ、なんとかなるだろう」
 ム・ジカはそれでも楽観的な考えを変えることなく、あくびをする。
 結果として、どうにもならなかったのだけれど。


「・・・・・・どうしましょうね」
 しみじみとつぶやかれたイーリアスの言葉に、ム・ジカはため息で返す。
「とりあえずカトゥリゲス鉱山に戻ろうか」
 クリスタルケージの属性を変えられるとすれば、ミルラの木のある場所だろう。カトゥリゲス鉱山でなければキノコの森まで戻らなければならない。アルフィタリア城まで行きたいム・ジカたちにすればそれは勘弁願いたい。
 ム・ジカの言葉に異論はないようで、元来た方向へと歩き始める。
「・・・・・・あれ?」
 歩き始めたティパの村のキャラバンだったが、エリンがふいに足を止めて後ろを振り返った。振り返った先には瘴気の渦巻いているだけのはずだが。
「どうした?」
「うん・・・・・・。一瞬話し声が聞こえたような・・・・・・」
 エリンの言葉に、ム・ジカたちも足を止めて後ろを振り返る。
 やがて、エリンの言う通り、声が聞こえ、人の姿も現れた。クリスタルケージを持っていることから、キャラバンの一行であろう。
「おーい」
 やがて、向こうもム・ジカたちを見つけたのだろう。呼びかける声が瘴気を割って響く。


「あー・・・・・・。ケージの属性の変え方をおしえてもらえなかったかぁ」
 やがて合流したキャラバンは、ティダの村のキャラバンであることがわかった。
 そして今はティダの村のキャラバンと一緒にカトゥリゲス鉱山に戻っている途中だ。瘴気ストリームの属性の見分け方と、ケージの属性の変え方を教えてくれる代わりに、カトゥリゲス鉱山の途中まで同行することになったのだ。ティダの村のキャラバンは3人で、皆クラヴァットだ。
「あぁ、セシルはもう長いのか?」
「今年で6年目ぐらいか」
 ティダの村のリーダー、セシルの言葉に、ム・ジカは驚く。キャラバンとしてはかなり長い方だろう。
「だからまぁ、それなりにいろんなところに行ってるぜ?川向こうの湿原は結構きつかったな。じめじめしてるし、ミルラの木までが他のところより道程が厳しい」
 セシルの言う湿原とは、おそらくコナル・クルハ湿原だろうな、とム・ジカは辺りをつける。新天地を目指したセルキーが幾人も挑んだ場所だと聞いている。
 セシルが、ム・ジカの脇を肘でつついてきた。顔を向けると、耳に顔を寄せてきた。
「で?お前はあの子に種族の壁を越えた恋心を抱いてるのか?」
 セシルの言葉に、ム・ジカは自然と半眼になる。
「アホか。あいつには村に想い人がいるっての」
「そうか・・・・・・。で?好きなのか」
 セシルの繰り返される言葉に、ム・ジカは辟易する。
「あいつは俺の妹みたいなもんだっての。別に恋愛感情はねぇよ」
「またまた~。じゃああっちのユーク?お前も物好きだねぇ。あ、でもオレは応援してるぜ?種族を超える愛。親族の反対、手に手を取り合って励まし合う二人。逆境だからこそ燃え上がる二人の愛の炎」
 ム・ジカを置いて、一人盛り上がっていくセシルのことをム・ジカは無視することにした。


 その後、ティダの村のキャラバンにダンジョン中にあるホットスポットの存在を教えて貰ったティパの村のキャラバンは、カトゥリゲス鉱山の攻略まで手伝い、再びメタルマイン丘陵とその先にある道の大地、アルフィタリア盆地をまたぐ瘴気ストリームまできた。
「さてと。クリスタルの属性も無事変えることができたし、アルフィタリア城に行くとしますかねぇ」
 今度はクリスタルケージの属性も変えているので、前回のように通れない、ということはないはずだ。ケージを持つム・ジカたちの足並みも軽い。
「長い気がしてた1年目の旅ももうちょっとで終わりだね」
 ム・ジカの隣をチャドが歩きながらいう。
「おいおい。まだ一箇所回らないといけないんだ。気を緩めるなよ」
 もうすでに終わったつもりになっているチャドに釘をさす。
「でももう折り返し地点にきてることは確かだし、アルフィタリア城を楽しむぐらいはいいんじゃないかな」
 チャドの言葉に、エリンも同意する。楽観的な二人に、ム・ジカはちょっと呆れるが、気を張ったまま、というのも疲れることは事実。キノコの森に入る前に一度気を引き締め直すように言おうと決めた。
 瘴気ストリームを抜ければ、アルフィタリア城はもう目の前だ。


←BACKFFCC TOPNEXT→
inserted by FC2 system