荒野に、小さな6つの影と大きな1つの影が対峙していた。
 その2つの間に流れる流れる空気は穏やかなものではない。
 やがて、6つの影のうち、最も大きな影が、大きな1つの影へと武器を構えて突進していく。大きな影、一般に龍と呼ばれるものはそれを認めると応じるように右前足を突き出した。人と龍の戦闘の開始である。
 一方で、残った5人の方にも動きがあった。
 初めに動いたのは、青いマントを羽織った女だった。女は、隣にいた草冠をした女の手を握った。二人の手のひらにはそれぞれ刺青がされている。青いマントの女は、隣の女に向かって水行の精霊を放出する。草冠をした女はそれを受けると隣の男の手をとった。
「行くよ、あんた」
 男が頷くのを見る前に男の手にある刺青に木行の精霊を放出する。思わずいつもの癖で攻撃用の精霊術にしそうになったが、ギリギリのところで思いとどまり、精霊を放出することに成功した。
 青いマントの女が放出し、こちらに流入してきた水行の精霊を木行の精霊が吸収することでいつもと同じ精霊量だが密度の濃い精霊が男の手をつかんだ左手から放出されていくのを感じた。
 木行の精霊が右手の刺青を通じて流入される感覚に、男はわずかに安堵した。実戦でも構わずこちらの右手に精霊術を放つのが今自分の隣にいる女だ。過去それで任務が失敗したこともいくどかある。
(どうしてこいつ未だにクビにならねぇんだろうなぁ)
 そんあ思いを作りながら己の中の火行にこちらに入ってきた木行の精霊を食わす。そして隣にいる男の背中。そこにある刺青に左手を乗せる。火行の精霊は己の右手にある刺青からではなく、首筋にある刺青をとおして流入される。なぜ右手からではないのかを毎回不思議に思い、毎回誰かに聞くのだが、毎回忘れる。最近では誰に聞いても相手にされなくなってきた。しかし、別にいいか、と思う。
(考えるのは俺の仕事じゃないしな)
 考えなくても問題は起きていない。ならばそういうものだろうとおもうことにしている。
 背中の刺青から火行の精霊を取り込んだ男は、これが終わった後、うしろの男にまた刺青を3箇所彫っていることを説明しなければならないことを憂鬱に思う。正直、他の面子同様、無視すればいいのかもしれないが、そうすると後ろの男は確実に今水行を操っている女のところに聞きに行く。そうすると自分は今、前衛を一人で張っている男に無言で攻撃される。そんなことになるのは目に見えている。正直、自分に攻撃するぐらいなら直接火行の男に攻撃すればいいとおもうのだが、何やら二人の間には距離を感じる。
 二人の間に何があるか知らないが、攻撃されるのは嫌なので、後ろの男にはまた説明しなければなるまい。
 この後に待っている憂鬱な時間は忘れ、今は今の時間を大切にすることにする。
 そして彼は隣の女の右手と己の左手をつないだ。
「早く帰ろうぜ」
 右隣の男から土行の精霊を受け取った女は、彼の右手にある刺青を通して金行の精霊を取り込むと、それまでの過程で増幅されたものを精霊術として放射した。

Yves TOP
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