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「お、セルキーじゃないか。ここへは売りに来たのか?それとも盗りに来たのか?」
 アルフィタリア城を散策していたム・ジカは、後ろからかけられたそんな言葉に振り返る。過去、盗みを働いていたセルキーは、よその土地ではこんな風に声をかけられることは珍しくない、ということは父から聞いていたム・ジカだったが、実際にそういう風に声をかけられるとあまりいい気はしない。
 振り返り、ム・ジカに声をかけてきた人物を視界に収めると、そこには一人のクラヴァットが立っていた。てっきりリルティが声をかけていたと思っていたム・ジカは、そこに立っていた予想外の種族に、思わず眉を顰めた。
「ああ、いや、気を悪くしたんならすまない。悪気はなかったんだ」
 眉を顰めたム・ジカを見て、ム・ジカの気分を害したと思ったのだろう。そう言って、慌てた様子で両手を体の前で振る仕草からは、確かに悪気があるようには見えなかった。
「ただ、よそから来たセルキーが珍しくってよ。他にかける言葉を持ってなかったんだ。すまない」
「いいよ、別に。それで?話しかけてきたってことはなにか用か?」
 ム・ジカがそう返すと、相手のクラヴァットは表情を明るくした。
「そうか!それを聞いて安心した。おれも別に用事があるってわけじゃないんだ。ただ、ちょっと見慣れない人を見たもんだから。ほんとにそれだけなんだ」
「そうだったのか。俺はム・ジカ。ティパの村の出身だ。ここへはミルラの雫を集める旅の途中で立ち寄った」
「クリスタルキャラバンか!!・・・・・・あ、いや名乗らずにすまない。おれはセシルっていうんだ。よろしく。アルフィタリア盆地の、東にティダの村ってあるんだが、そこ出身だ。おれもクリスタルキャラバンでね。守る村は違うとはいえ、同じ使命を持って旅してるやつと出会えたことが嬉しかったんだ」
 クラヴァット、セシルが、そう言った。
「あんたもクリスタルキャラバンだったか。もう長いのか?」
「まだまだ。今年で3年目になる。やっと他のメンバーとのチームプレーができるようになったところさ」
 セシルの言葉に、思わず唸る。3年目でもまだまだというならば、自分たちはどうすれば良いのか。とにかく気を引き締めて旅を進めようと思う。
「・・・・・・でよ、そっちは何人だ?」
「キャラバンか?4人だ」
「ティパの村って、おれは行ったことないんだが、リバーベル街道の向こう側だよな?」
「ああ、ティパ半島の南端にある」
「あそこって民族入り混じって生活してたと思うんだが、あってるか?」
「そのとおりだ」
 普通のことを聞いているはずなのに、セシルの言葉の裏を読もうとしてしまう自分に、うんざりする。もしかすると、故郷に住み辛い理由でもあって、ティパの村に来ようとしているものかもしれない。もっとも、面倒ごとを持ち込まれるのはあまり好きではない。世話好きのキアランはじめ、村長一族は人が増えるのはいいことだ、と言って歓迎しそうだが。
「・・・・・・じゃあよ、お前んところのメンバーにクラヴァットはいるか?」
「四人とも異なる種族で旅してる」
「まぁ、クラヴァットがいるからやりやすいだろう。もしもそれにクラヴァットがいないって聞けば、少しその話疑うけどな」
 セシルの言葉に、クラヴァットらしくないな、と思う。たしかに、歴史的にみても、クラヴァットは人々の融和を図るために頑張ってきたということがわかる。しかし、あえてそれをいうクラヴァット、というのはム・ジカの周りにはいなかったのだ。
「さて、本題に入るが・・・・・・。メンバーにいるクラヴァットってのは、女か?」
 セシルの言葉を聞いたム・ジカは、思わず半眼になった。
「・・・・・・本題ってのはそれか?」
「なんだよ!悪いか!ロマンスってのは旅をする十分な動機になるだろ!?旅先で出会った二人!許されない恋!しかし互いを思う心には逆らえず、ついに互いの村を飛び出して新天地での暮らしを始める二人!!そこで二人に立ちふさがる試練!あぁ!二人は一体どうなるのか!」
「・・・・・・阿呆らし」
 あくびを一つしたム・ジカは、セシルに背を向けて歩き出した。
 しかし、セシルはム・ジカへの用件が終わっていないのか、ム・ジカの後を追いかけてきた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」 
 いい加減相手をするのに疲れたム・ジカは、そんなセシルを胡乱気に思い視線を向ける。
「本題はもう終わっただろ。俺はここをいろいろ散策したいんだけど」
「まぁまぁそう言わずに!!それに俺ならここを案内できるぜ?村から近いこともあって、キャラバンとして旅をする以前から商隊についてここには来てたからな」
「お前の本題とやらには付き合ってられないが、それでもいいのか」
 そう言われたセシルは、顔を何度も上下に振る。
「も、もちろんだ。実は相談があってだな・・・・・・。これから村に買って帰るお土産を買いに行くんだが、そのお土産を一緒に選んで欲しいんだ」
 セシルの言葉に、先ほどの本題を聞いた時以上に呆れる。
「そんなの、俺にいうよりも同じキャラバンのメンバーと一緒に選べよ。なんでよそ者の俺にそんなものを頼む」
 頭に思い浮かべるのは、ともに旅を続けているメンバーだ。お土産など買ってこなくてもいいから、無事に帰ってくることを優先してくれ、と言った村長の言葉に従い、ム・ジカたちはわざわざお土産を買って帰ろうなどとは思わない。エリンはキアランには買っていくだろう。シーベークは何か錬金術で使えそうなものがあればとって帰るかもしれない。チャドもおそらく鍛治に使えるいい金属があれば持ってかるだろうが、わざわざ買って持ち帰るものでもないだろう。ム・ジカもそんなものを持ち帰るぐらいなら他の町の情勢を多く知り、伝えた方がいい土産になることは知ってるし、それを暗に求められていることも知っている。その意味では、しばらく連絡のなかった姉の無事をしれたのはいい土産になった。
「いや、その・・・・・・。相手が村に置いてきた恋人で、一緒に旅してる奴らは茶化してくるからお土産選びにならないんだ」
 昔その場の空気で訳のわからないものを送って激怒されたこともある。と続けたセシルに、ム・ジカはますます呆れる。
「そりゃ誰かに相談するのが間違ってる。自分がいいなと思ったものを買って帰ればいいじゃないか」
 ムジカの言葉を聞いたセシルの表情が、一気に暗くなる。
「・・・・・・あなたのセンスはあまりにも私とかけ離れているから、お土産を買って聞くれる時には誰かと一緒に選んで」
「そう言われたのか」
 セシルが表情暗いままで頷く。これは面倒なことになった、とム・ジカは天を仰ぐ。なにしろ、このセシル。ム・ジカが頷くまでム・ジカに付きまといそうなのだ。
「・・・・・・で、そのお土産とやらの候補はきまってるのか」
 セシルの表情が一気に明るくなったのを見て、ム・ジカは今までの全てが演技だったのではないか、と疑ってしまった。
「当然!!いやぁ。うちの村って装飾品を作ってないんだよ。アルフィタリア城が近いこともあって、アクセサリーはこっちで買えばいいや、っていう考えが浸透しててさ。だからアクセサリーを買うつもりだ」
 確かに、アルフィタリア城はリルティの人口が多い場所だけあって、鍛治が盛んだ。手先の細やかなものは武具を作る合間に、趣味で作るものも多いと聞く。もっとも、リルティたちがつくるアクセサリーは、滴集めをするものにはあまり知名度が高くない。戦闘で生かせる効果を付けられていないからだ。そういったものは、この大陸の端、ユークの暮らす場所で盛んだと聞く。
 アクセサリー、と言われて、ム・ジカは適当なものを頭に思い浮かべる。ネックレスに腕輪。変わったところではメガネ。イヤリングなんかもあるな、と思い浮かべ、恋人から贈られて嬉しいものを忘れていたことに気がつく。
「指輪か?」
「・・・・・・やだなぁ。そんなわけないじゃないか」
 セシルの寂しそうな笑いに、ム・ジカは不審に思う。
 さっきの口ぶりから言って、恋人がいるのは間違いないだろう。そしてお互いに何かをプレゼントする間柄でもあるようだ。そこまで考えて、ム・ジカは己の考えに片手を上げる。いや、待て。そうではないかもしれない。
「ストーカー・・・・・・か!?」
「ち、違う!おれとあいつは間違いなく恋人同士だ!おれが告白して、あいつも嬉しいって言ってくれた!幸せにしてね、とも言ったんだ!少なくともストーカーじゃない!」
「じゃあなんで」
 セシルがム・ジカから視線を離し、そのまま空を見上げる。
「お前、まだ村に帰れないかも、って思ったことないだろ」
 それまでの態度からは想像もつかなかった重いことばに、ム・ジカは思わずセシルから視線をそらす。
「あ!いや悪かった!!空気悪くしちまったな!さぁ、アクセサリー選びに付き合ってくれ。候補は幾つか決まってるんだけどさ!曰くおれの選んだものはあんま好きじゃないってさんざん言われてきたから!だめだと思ったらお前がいくつか選んでくれよ。その中から決めるから!!」
 歩き出したセシルの背中を、見た目よりも大きく感じながら、ム・ジカはその背中を追って歩き出した。


 結果から言うと、セシルはブレスレットを買った。
 セシルの選んだものは、その顔も見たことのない恋人の言う通り酷いものだったが、そのブレスレットだけは思わず見惚れるほどの品だったのだ。
 ブレスレットを買ったセシルは、ム・ジカに礼を言って滞在している宿に向かって進んで行く。セシルに手を振ると、ム・ジカも歩き出す。セシルの言ったことばが耳から離れない。



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